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高松高等裁判所 昭和39年(ウ)88号 決定

申立人

大田正夫

主文

本件各申立を却下する。

理由

本件忌避申立の原因は別紙のとおりであつて、その要点は、「申立人がなした当裁判所昭和三九年(ラク)第一六号特別抗告事件(後記参照)が現に最高裁判所において審理中であるのに、当裁判所が昭和三九年(ム)第二号再審事件の判決の言渡をしようとしているのは、申立人の権利を侵害する不公平な措置であるから、その担当裁判官を忌避する」というのである。

しかし右昭和三九年(ム)第二号事件の審理の経過をみると、右事件は昭和三九年八月二五日の第一回口頭弁論期日において審理の上弁論終結となり、判決言渡期日を同年九月二二日と指定されたところ、申立人から同年九月一六日右事件の係裁判所書記官に対する除斥(実質は忌避)の申立があつたので、当裁判所は同年九月一九日前記判決言渡期日を変更して次回言渡期日は追つて指定する旨の決定をなす一方(民事訴訟法第四二条参照)、右除斥の申立に対して同年一一月一〇日申立を却下する決定をなし、これと共に前記事件の判決言渡期日を同年一一月一九日と指定した。ところが申立人は当裁判所の前記九月一九日附の判決言渡期日変更決定に対して同年九月二五日特別抗告をなし、その特別抗告事件(当庁昭和三九年(ラク)第一六号)が現に最高裁判所において審理中であることを理由に本件忌避の申立をなすに至つたので、当裁判所はやむなく右判決の言渡を同年一二月一〇日に延期した。なお申立人は、当裁判所昭和三六年(ネ)第一六五号損害賠償請求控訴事件(控訴人申立人、被控訴人安部元芳)において昭和三七年および昭和三九年にそれぞれ担当裁判長を忌避ないし除斥(実質は忌避)する申立をなしたことがあるほか、昭和三九年九月三日には右事件を担当する裁判長裁判官浮田茂男、裁判官水上東作、裁判官石井玄の三名(本件忌避の申立を受けた裁判官三名と同じ)に対し除斥の申立をなし、その申立が却下されるや、さらに特別抗告の申立をなし、現にその審理中であつて、前記控訴事件は審理が中止されている。以上の各事実は、前記各事件記録に徴し明らかなところである。

右の経緯に鑑みると、本件忌避の申立は専ら訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかであるといわざるを得ない。(当裁判所の前記九月一九日附の判決言渡期日変更決定は、申立人の特別抗告の申立にかかわらず確定しているばかりでなく、右特別抗告の結果が如何ようになろうとも、当裁判所が前記再審事件について判決の言渡をなすことを妨げることはありえない。)かかる忌避の申立は訴訟当事者に認められた訴訟法上の権利の乱用であつて、申立自体不適法というほかなく、このような場合には民事訴訟法第四〇条第四二条の規定は適用されず、忌避の申立を受けた裁判官によつて構成される当裁判所が自らただちにこれを却下することができるものと解すべきである(刑事訴訟法第二四条参照)。よつて主文のとおり決定する。(裁判長裁判官浮田茂男 裁判官水上東作 石井玄)

(別紙)忌避申立の原因<省略>

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